労使トラブルと就業規則

賃金・賞与・退職金

賃金に関する労使トラブルと就業規則
賃金・賞与・退職金に関する労使トラブルのうち、ここでは賃金に関して考察してみたいと思います。

賃金に関する労使トラブルには債権と賃金との相殺、休業手当と民法との関係などがありますが、このページでは人事考課に基づく賃金減額について述べてみます。

1.(光洋精工事件 大阪高判平9.11.25 労判729‐39)
会社が、職能資格等級制度において人事考課を行ったところ、裁量権を逸脱・濫用した違法・不当な評価をし、その結果賃金及び退職金が同僚に比較して不当に低く抑えられたと主張した労働者が、不法行為に基づき同僚との賃金及び退職金の差額・遅延損害金の支払いを求めました。

判決は「人事考課の適否については、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできず、これらの事情が存在したとは認められない」として、同僚との賃金、退職金の差額や慰謝料等の賠償請求を退けました。

2.(医療法人財団東京厚生会事件 東京地判平9.11.18 労判728‐36)
婦長から平看護婦に降格した使用者の措置を違法・無効として、元婦長が退職した後に、債務不履行などを理由として、退職時から定年退職時までの賃金相当額の逸失利益の賠償を求めました。

判決は「一般に、人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属しており、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、違法とは言えないが、婦長から平看護婦への2段階の降格は、業務上の必要性がなく、裁量判断を逸脱した違法なものである」とされました。ただし、賠償額については、使用者が違法な降格をしたことによって婦長として働くことを拒否した場合でも、元婦長は少なくとも労務の提供の準備をすることを要することなどから、33万円と遅延損害金のみが認められました。

これらの事件から、使用者は経営上の必要性から広汎な人事上の裁量権を有しており、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、違法とは言えないとされています。

賃金の減額を伴う場合には、労働者に対する不利益の程度が大きいため、より、客観的な合理性が求められます。

資格等級の引き下げによる降格処分が、職能給の減額を伴うもので合意や就業規則上の根拠がないとして無効とされた裁判例(マルマン事件(大阪地判平12.5.8 労判787‐18)、アーク証券事件 東京地決平8.12.11 労判711‐57)があります。

降格・減給に関しては無用なトラブルを防止するために、また、従業員が安心して働けるために、合理的な人事評価基準を定めた就業規則(名称は「人事考課規程」等)の存在が不可欠と言えます。

次に賞与・退職金について考察してみたいと思いますが、これに関してはブログをご覧ください。

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